海外研究室事情 (天文月報'01 Nov. 掲載)

Department of Space Studies,

Southwest Research Institute

サウスウエスト研究所/宇宙科学部門

http://www.boulder.swri.edu/



米国コロラド州のロッキー山脈のふもとの町、ボウルダーに、サウスウエスト研究所、Department of Space Studiesはある。ここで、文部省在外研究員の期間を含め1年半の研究生活を送ることができた。

サウスウエスト研究所(略称、SwRI)を知る人は、天文学の分野では多くないかもしれない。同研究所は、機械工学や、生化学工学、応用物理学など、工学の広い分野をカバーする民間の工学研究所で、その本体は、コロラド州ではなく、名前の通り南西部のテキサス州に位置している。この研究所の一部に、科学衛星やロケットの機器開発などを行う宇宙工学の Division があり、更にその中の一部門で、惑星科学の学術研究を行っているのが、「ボウルダー支所」のDepartment of Space Studies (略称、DoSS)である。民間の研究所に、惑星科学の研究を行う部門がある点は、米国における惑星科学研究の層の厚さを感じさせるところだ。

研究所のあるボウルダーは、コロラド大学を中心とした町で、その他にも、米国気象研究センター(NCAR)や海洋研究所(NOAA)などがあり、研究者の多い町だ。近年、IT産業が誘致され、経済的にも豊かになり、非常に住みやすく治安のよい町である。ダウンタウンには、奇麗な店とレストラン、そして、コロラドの美味しい地ビールを出すパブが並び、道ゆく人々でいつも賑わっていた。また、ロッキー山脈のふもとということで、自然の美しさは申し分ない所である。アウトドアスポーツやスキーが盛んで、好きな人にはたまらないであろう。海抜1マイル以上という高地であるため、陸上選手もトレーニングに多く訪れる。「日本の女性マラソン選手がトレーニングしている場所」として、ご存知の方も多いのではないだろうか。ジョギングしたり、自転車に乗っている人が多く、またそれが似合う町である。

SwRI DoSSは、1994年に設立された新しい部門で、当初は、彗星や、カイパーベルト天体、冥王星の研究で知られているスタン博士とレビソン博士の2人からスタートした。しかし、現在は23人の研究者が所属するまでに成長し、今後さらに増えて行くそうである。研究分野は大きく分けて、惑星形成、惑星大気、小惑星、太陽物理であった。理論と観測がバランス良く共に充実しており、また多くの研究者が、惑星探査ミッションに参加している。更に、今年から土星探査ミッション「カッシーニ」の画像解析グループも外部から加わり、益々勢いを増しているという感じである。現在、コロラド大学と併せた惑星科学のグループは、この分野では、世界でも有数の大きなグループであろう。この様な研究環境であるから、研究の議論の相手には事欠かない。さらに外部からの訪問者も非常に多く、内外の研究者が話す、DoSSやコロラド大でのセミナーは、非常に充実したものであった。

Doss自体は小規模なので固有の建物を持っているわけではなく、ダウンタウンにあるオフィスビル1フロアーの半分を借りている状態である。しかも、規模が膨れ上がりつつあるため、研究者1人のスペースは、狭い。しかし、私はたまたまビジター用の大きな部屋を2人と、十分な広さを与えて貰えた。今年は研究者が更に増加し、その部屋も一杯らしいので、幸運であった。その他のオフィス環境も快適であった。電話は、自分の机にあり、国際電話も自由に使わせて貰えた。また、コピー、ファックス、郵便も不自由はしなかった。

米国の研究者の多くがそうであるように、彼らの研究費や給料は、主に、NSFNASAなどの外部へプロポーザルを出し、取ってくることによりまかなわれる。このため、彼らはこのプロポーザル書きに非常に多くの時間を費やす。彼らによると「プロポーザル書きと研究は半々位」だそうある。特に、年間十以上のプロポーザルを書く若手研究者が何人かいたのには、驚かされた。ここには、プロポーザル書きのストレス発散の機会も用意されていた。夕方5時になると、毎日に近い割合ですぐ横のパブに大人数で飲みに行くのである。研究以外の話題も出て、彼らの研究者以外の顔を見ることができるこの場は、私にとって楽しく貴重なものだった。但し、この飲み会も通常1時間程でお開きとなる。だらだらと続けない所は、アメリカ人らしい所であろう。

最後に、私の行った研究を簡単に紹介させて頂こう。DoSSにおける私の共同研究者は、惑星形成論において、多くの重要な論文を書いているワード博士であった。私は彼と共に、惑星形成段階において、原始惑星系ガス円盤との重力相互作用によって惑星の軌道がどのように進化していくかを調べた。すでに、ワード博士により、簡単化したモデル下で、この相互作用により惑星は比較的短い時間で中心星に向かって落ちていくことが示されている。この惑星落下は、惑星形成論において重大な問題となっている。我々は、惑星円盤間相互作用のモデルを精密化することにより、「惑星落下問題」の解決可能性を探った。又、これと並行して、コロラド大の大槻博士と惑星リング進化の理論研究も行うことができた。日本に帰国した今でも、これらの共同研究は続いている。また、近いうちに「ボウルダーのSwRI」を訪ねたいと考えている。

田中秀和


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